本日トーエイ ランドナー 納車

昨日、京都の老舗自転車屋Yさんから念願のトーエイ車が出来上がったという電話連絡。しかしまあ自分でも飽きれるくらいの自転車熱である。今年に入って二台購入、一台改良と欲望の嵐が吹き荒れている。もちろん嫁さんには内緒、資金は私個人のMRFから調達。私のオートバイ仲間にTnさんというご仁がおられるのだが、このお方、一時は毎月一台以上新しいオートバイを買われていて一年に十数台購入された記録もあるという、まさに三昧の境地に達しておられたのだが、今の私もこのTnさんに近いものがあると感じて恐縮至極であるのだが、まあ、ここはひとつ浮き世の戯れ言、所詮うつけ者の狂言と笑い飛ばして頂きたい。
さて、本日遅い朝食の後、自転車着のうえからジーパン履いてYさん(人名ではなく店名)にむかって家を出ようとしたところ、いきなりの雨。それも大粒の雨礫。これはいかんとゴルフに飛び乗り京都まで行く。着いてみると見る見る天気は回復、まったく残念な気持ちでYさんに到着。そう、帰りはそのトーエイで自走のつもりだったのだ。
店の主から一通りの説明を受け、京都府の防犯登録のシールをシートチューブに貼ってもらって納車完了。それは濃紺に剣先メッキ、控えめな金線飾りが意地らしい、全く見事なフルオーダーフレームの自転車である。中古車とは思われないコンディション。聞くと元のオーナーはトーエイ車を複数台所有されていたそうで、そのすべてがYさんで発注されたものらしい。謂れのしっかりした「釣書」のきちんとした車体なのである。またこれほど身体に合ったサイズに出会えるというのも偶然の一期一会、まさに奇跡というしかあるまい。
店を出てクルマに積み込み、やはりこのまま帰るのは忍びない。ということで取り敢えず嵐山へ向けて走る。駐車場へ停めて、自転車を出し、腹も減ってきたので「毬りん」へ向かう。と、店の前に、あれ?見覚えのあるロッソなマーズィが停まっているではないか。恐る恐る中を覗くと・・・やっぱりUさんであった!これはこれは!奇遇である。なんでも今朝、mixiよりメッセージを下すったらしいのだが、PC開けてないのでわからず、いやもう偶然という他無い偶然の出会いであった。
毬りん自慢のカレーつくね定食を堪能し、写真も撮ってもらいこのまま別れるのもなんだし、時間もあるしと言うことでUさんにお付き合い頂いて、高雄から杉坂、京見峠を走ってきた。初試走である。実はこのトーエイ、正統古典ランドナー派からは一言ありそうなスタイルである。正統古典ならコンポにはサンプレックス、ユーレー、クランクはTAかルネタイプ、ブレーキはマファックといったブランドが珍重されるのであるが、この自転車はシマノ XTRで組んである。このXTR、本来はMTBでつかうメカなのを敢えてランドナーに使用している。だから見てくれに優雅さが無い。クランクのデザインもアメリカンでフランス趣味の多い正統古典の人には白目を剥かれるに違いない。だがその性能は段違い。変速に全くストレスを感じさせない。肝心のフロント変速はスチャンと軽快に入るし、リアに至ってはレバーのインデックス音に消されてか、殆ど無音で入る。これはいい。旧式の変速は、ご存知の方もおられると思うが特にフロントインナーからアウターに上げる時、一瞬ペダルの力を緩める事をせねばならず身体が覚えるまでは苦労するのだが最新最高グレードのXTRではそういった事は気にしなくてよい。これは快適そのものだった。
ホイールサイズはHE26、所謂MTBサイズである。最近一般のランドナーの650A(26x1 3/8)よりまだ少し小さい。ましてや700cと比べると相当小さいものだ。ここでしかし、このホイールサイズというもの規格が複数あって一般には分かりづらい。700cとしても27インチと表記されるものもあれば28インチというのもある(どちらもおなじ)。ややこしい。とくにアメリカのマウンテンサイズが出てからはもうチンプンカンプンになりつつある。ただ、このややこしさがまた嬉しかったりするもので、趣味とはまったく非合理なものだといってよい。ただこの一回り小さなホイールのお陰で貧脚な私でも漕ぎ出しが非常に楽になる。激坂が、ちょっときつそうな坂に変わるのだ。絶対的な速度を求めないランドナーにはこの走破性が肝だと言ってよいだろう。

高雄を素通りして一つ目のトンネルは残念ながら迂回出来ず(道が閉鎖されていた)だったが二つ目の長いトンネルは迂回して、というよりこちらの道が元々で、そこに中川集落がある。主に北山杉の磨き丸太を作っている製材所のちょっと変わった建物が川沿いに並んでいる。市川映画、川端康成作「古都」でヒロインの山口百恵ちゃんが演じたの苗子(双子の姉妹の一人)の家もその中の一つだ。その前の橋の上で楚々として演じていたのを覚えている。そういえばこの映画、百恵ちゃんの引退記念だったと思う。二十数年以上も経つ昔になってしまった。百恵ちゃんというより百恵さん、いやもうすぐ百恵おばあちゃんになるのも近いだろう。隔世の感数多あり。今の中川地区は道も旧道となり往来の喧噪もなく、ひっそりと佇んでいる。
ここでしばし休憩。写真タイム。Uさんに色々写してもらう。私もUさんを写す。最近密かなブームらしい「ダムダムポージング」を決めてみたりして和む。先を急がないサイクリングはこんな事が楽しい。ノンビリ談笑の後、北を目指してペダルを踏む。やがて杉坂口を右に折れ、京見峠へのだらだら上りを走る。非常に気持ちがよい。途中レーサーに何度か抜かれるが後を追う気持ちもない(追っても追いつけるはずもない)。山間の景色が自転車のスピードに合わせてゆっくりと移ろいで行く。綺麗だ。この季節の針葉樹と広葉樹のコントラストは素晴らしい。山笑うとは(厳密には春の)季語だがまさしく山笑うようだ。木漏れ日が光る道を走る。
やがて案外あっけなく峠茶屋に着く。ここでも小休止。この茶屋は平日に開けているのだが、中には囲炉裏が切ってあって、濛々とした煙の中で食べる蕎麦は絶品である。しかしこれも今は昔話。思えば遠い日のことだ。今も中には囲炉裏が火を起こしているのだろうか。また今度訪ねてみよう。


後で気付いたのだがフロントバッグにデジタル一眼、オリンパスペン(往年の名機の名だ)を忍ばせてあったのだが、いつの間にかカラー設定が「ビビッド」になっており、写した写真が妙な色具合で、あたかも東南アジアにでも行ってきたようになってしまった。このカメラ、コンパクトなのは有り難いがボタンの位置が後面に集中しており、つい身体が触れてしまって設定が変わる。これは明らかに設計に落ち度がある。カメラはやはり軍艦部にボタンを配置してほしいものだ。ちなみにこのフロントバッグ、ジルベルトゥ製。こんなミニサイズもあったとは知らなかった。半日コース程度ならこれで充分だと思う。可愛い。
またまたしばし歓談の後、鷹ガ峯の例のスーパー激坂を押して(いや、正確には引っ張られながら)下りる。この坂は本当に危険だ。程なく金閣寺門前まで辿り着きここで市内に帰るUさんとお別れして、宇多野方面へ向かう。広沢池で夕景の写真を撮り、大覚寺大沢池畔で入り日に映える水面を眺める。風が心地よい。
一人の東洋系美女外国人に英語で話しかけられた。写真撮影の依頼であった。「サンキュー」「ウェルカム」で終わった事を今、非常に後悔しているのである。しかし美人であったな。そのあとも暫く池を写真に収め、まっすぐに祇王寺への道を辿る。二尊院、落柿舎、野宮神社を経て嵯峨竹林の中を走り、停めていた車のところへ。短い時間だったが味わいのあるサイクリングだった。そしてトーエイランドナーの素晴らしさを実感する事が出来た。たまには先を急がないことも良い事だと思った。