久多の民家

先日のブログで野菜の土産をもらったことを書いて、今回はその続きみたいになるのだが、土産をもらった後そのまま広河原へ出て佐々里峠へ行くのも在り来たりだと、能見越えをして久多を目指す。道の状態が不安だったが何のことはない、あっけなく向こう側へ出られた。神社のある三叉路へ出る手前に姿の良い民家がある。過去に何度も写真を撮らせてもらっているが絵に描くことがなかったので、今回はここをスケッチしてみる。

丁度西日が射して程よいコントラストを見せている。ドラマチックで僕の好きな光線だ。

最近、技量的にも感性的にも水彩画に往き詰まっていて、どうにもならないのでもう一度基本からやり直そうと伝統的技法でこの民家を描いてみようと思った。とにかく迷った時はもう一度最初に戻ってみる。もしかしたらそこに新しい道が見えて来るかもしれない。以下、その製作過程を記録してみた。何分自分なりに解釈した伝統技法なのでそのあたりは大目に見て欲しい(笑)ただ、とにかく夢中で描き終えたというのが実感で、非常に楽しいものがあった。


先ず、スケッチを元に下書きをする。勿論鉛筆はHB。紙はウォーターフォード、粗目を水張りしたもの。デジカメで写した簡単な写真も参考にするがあまり気を取られ過ぎないようにする。


秋の基本色はイエローオーカーで間違いないところだが、今回はオーレオリンでグリザイユをしてゆく。それだけ印象に残った光は鮮やかだった。


少しずつ色を重ねて陰影をつけてゆく。スケッチを解釈しながら進めてゆく。


こんな感じで描いてます。と、本当は新しく手に入れたパレットを見せたかったりして(笑)


このあたりで下塗り完了。毎回完全に乾かしてから色を置くので結構時間がかかった(ドライヤーで乾かすのが嫌いなのだ)。
もう一度スケッチ(と写真)を観察してこれから描き上げるタブローのイメージを固めておく。柔らかい西日に照らされた秋の空気に佇む民家を表現しようと決める。
写真から絵を描くことは悪いことではない。ただ、写真どおりに描くことは絶対に避けたい。写真家の作品を除いては多くの場合、写真のヴァルール(色相関係)は絵画に向いていないのではないか。緊密すぎるのだ。特に風景では注意しておきたい。写真をそのままなぞって描いても風(空気)景にはならない。


方向性を決めたら、いよいよ固有色を置いておおまかに陰影をつけてゆく。
陰は意味を二つ持っている。一つはそれ自体にある陰、もう一つは投影である。それ自体の陰はその固有色を強めたもの(自分との距離によって変化するが)で、投影は補色を頭に入れておくと良い結果が出るようだ。


決して一ヶ所ばかり描き込まないで、万遍なく絵の具を置いてゆく。順次乾かしながらの作業なのでそのほうが合理的と言える。背景の杉山も遠近感を持って描く。


より暗い部分を起こしてゆく。茅葺き家の細部には拘らない。スケッチを見ながら何となく見えているように描く。とにかくや柔らかく柔らかく。


道路に出来た陰を一気に描く。


濃度を上げながらさらに細部を詰めてゆく。手前ほど彩度、コントラストを強くし、遠景は眠く仕上げる。空気遠近法の古典的考えだ。
チタニウムホワイトで木の幹等を描き、画面を引き締める。


細部描写をして一応の完成。イーゼルから外して部屋の壁に立てかけ、距離を置いて眺めてみる。やはり数カ所違和感のあるところが出てくるのでそれを修正する。

夕食の後、ビールを(日本酒も)飲んでいる嫁さんに披露して感想を聞く。殆どが手厳しいものである(笑)が、そのあと二人で絵を眺めながらこの風景に因んだ話で盛り上がる。この時が絵画をやっていて良かったと思う至福の時である。

結局のところ、やっぱり僕は古くさいと言われようとも伝統的手法が好きだなと思った。