慌て者の極み

先週末から一泊で蟹を食べに出かけてきた。本年名残の蟹である。

兵庫県養父市八鹿。神鍋スキー場の近くだ。こんな山奥に蟹とは訝しく思われるだろうが、もともと日本海の魚介類を加工する工場がある土地柄だそうで、しかも泊まった旅館は網野だったかで網元をされていたらしく蟹の品質に間違いはないとのことで、流石に味は絶品であった。仲間との三十年来の旧知を温めることもでき素晴らしい旅だった。

何事も計画性のない性分なのでスケッチに出かける時も大体思い付きで行く先を決めている。前もって下調べなんかした日には必ず失敗する、期待が大きすぎて現実との落差がありすぎたりするのだ。行き当たりばったりに出会う情景に心惹かれることが多い気がする。思わず出くわす、という感じだ。
で、今日は少し足を伸ばして福井は越前市まで行ってみた。きっかけは昨日NHKテレビで放映していた「新日本風土記」だったかに越前手透き和紙が紹介されていたのをソファに寝そべって見るともなしに眺めていて、ふと越前の冬景色はさぞや雪が白いのだろうなと思ったことだった。一泊蟹旅行の帰りの車窓から眺めた白銀の世界の印象も下地にあった。
「よし決まった、越前へGO!」
全くの無計画である。
その時足許にいたうちの高齢ワンコが

「ちょっとは調べて行ったらどうなん?」と言っているみたいだったので取り敢えず昼飯は蕎麦にすることだけ決めた。

残念なことに越前では平地には雪が無く、おまけに今日は良く晴れて春を思わせる陽気。雪景色を期待していたので少なからずうろたえたが、これはこれで良いかもしれんと思い直し、和紙の里、五箇地区の最奥にある大滝神社の駐車場に車を停めて暫し散策。

この大滝神社、大層立派な社殿で驚いた。境内には岡太(おかもと)神社という御祭神が川上御前という手透き和紙の神様を祀る神社もある。

苔むした境内は長い由緒を思わせる。

あちこち歩いて何やら整備されたところに出る。

町を観光地化するために作られたようだが残念なことに人の姿が見えない。

素晴らしい建物もここに移築されて公開しているが全体にガランとした印象。土産に和紙の便箋でも買おうかとも思ったが独りで中に入る気になれなかった。写真を撮っているとおじいさんが話しかけてこられて越前和紙はもうだめだと言う。自分も和紙を漉いていたが廃業したとのこと。観光地化も失敗だとおっしゃる。確かに和紙で栄えた土地だ、和紙漉きの技術はあっても観光のノウハウは無いに等しい。建物の公開や体験コーナーという発想はありきたりで面白味がない。やはり越前和紙ならではの技術を活かし広めてゆくことが真っ当な地場の活性化だろう。
ちなみに国産高級水彩紙であるMO紙はここ越前五箇で作られている。技術は素晴らしいのだ。
正午になったので一旦クルマに戻り、蕎麦を食べにゆく。目当ての店「谷川」は案外離れたところにあった。
やはり福井は蕎麦処、皿に盛られてつゆがかかった独特のおろし蕎麦を食べたが辛味大根がよく効いて絶品だった。

さて、腹も満たして先ほど目星を付けていたスケッチ場所へ戻り店開き。と思ったら
ガ〜ン!なんと肝心の筆を忘れてきたではないか。おまけにクリップも忘れイーゼル水張り板が乗せられない。
最悪の事態に思わず馬鹿ヤロ〜と叫びたくなったが、そこは何とか堪えて鉛筆スケッチだけでもと思い直し、地べたに座って深呼吸をして描くことにする。

瓦好きのかたにはヨダレが出てきそうな風景ですが僕はあまり根気が続くほうではない。

この後もう少し描き進めて、写真を撮って終了。
何事も慌てて決めず、計画性を持つことが大切だという大きな教訓を得た一日だった。

とはいえ帰り道にまたもや思い立って、木之本で高速を降り土産を買いに北国街道沿いの「富田酒造」へ立ち寄る。

ついでに二軒ほど隣りの「つるや」でお馴染みの「サラダパン」も買って帰る。


これは思いつきでも成功した例である。